富裕層を対象にした金融サービスの競争が日本国内でも激化してきた。従来の貸出業務が頭打ちの銀行や、有望な個人顧客の取り込みに躍起になっている証券各社が、手数料収入の拡大を狙って富裕層を奪い合っているためだ。来年以降は、団塊世代の大量退職も始まり、退職金などでまとまった金融資産を手にする人のすそ野が広がる。欧米に比べ富裕層の基準となる資産の規模が小さいと言われる日本特有のサービス競争が展開されそうだ。
ロイターは3─4日、富裕層向け資産運用ビジネスを提供する金融機関幹部や専門家を集め「ロイター・ウエルス・マネージメント・サミット」を、東京とジュネーブの2支局で開催。日本、アジア、欧州における各金融機関の富裕層向けビジネスの戦略や展望を聞き、各マーケットや地域における金融サービスの特色や違い、共通する傾向などを探る。
<国内勢、銀行、証券などが一斉に富裕層向けサービス>
欧米に比べ、取り組みが遅れていた日本国内でも、このところ銀行や証券会社による富裕層向け業務の展開が目立ってきている。
みずほ銀行は昨年秋、5億円以上の預かり資産のある顧客向けに、プライベートバンキング(PB)事業を手がける子会社、みすほプライベートウェルスマネジメントを開業。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306.T: 株価, ニュース, レポート)はメリルリンチ日本証券との合弁で今年5月、金融資産1億円以上を持つ顧客向けに三菱UFJメリルリンチPB証券を開業した。
証券界では、大和証券が金融資産5000万円以上の顧客が利用できる投資一任運用サービス(ラップ口座)を約2年前に開始し、資産残高を約1800億円(2006年6月末時点)に拡大。大和は今後、三井住友銀行との提携で、金融資産10億円以上を持つ三井住友の預金者に対し、大和のラップ口座サービスの提供を始める準備を進めている。
<金融資産1億円の富裕層世帯は日本国内に86.5万世帯>
信託銀行も手をこまねいているわけではない。各行とも、相続手続きに必要な事務処理をまとめて請け負い、顧客の不動産や金融資産を把握できる遺言信託の販売を強化している。信託協会によると、三菱UFJ、みずほ、中央三井など7信託銀行の遺言信託の取扱件数は06年3月末に約5万2700件と、過去10年で2.8倍に膨らんだ。
しかし、依然としてどの金融機関にとっても「勝ち組モデルが確立されたわけではない」(UBS証券の銀行アナリスト田村晋一氏)というのが現実だ。にもかかわらず各社が富裕層ビジネスの拡大を急ぐのは、多額の金融資産を持つ層に対し、年金や投信といった運用商品の販売、相続税対策のアドバイスなどを提供し、収益源の1つにできるとの期待が膨らんでいるためだ。
野村総合研究所(4307.T: 株価, ニュース, レポート)によると、景気回復や新規株式公開(IPO)ブームなどを背景に個人金融資産は拡大し、日本で富裕層と呼ばれる世帯数は着実に増えた。05年末時点で日本国内に1億円以上の金融資産を持つ世帯数は86.5万世帯と前年比11%増加。金融資産の金額は213兆円と前年比30%増になった。
<団塊世代の大量退職、3年で46兆円の市場に>
銀行や証券は、こうした既存の富裕層にとどまらず、07年以降、大量退職する団塊世代にも注目している。団塊世代は長年勤務していた企業から退職金を現金で受け取り、それを全て消費するわけではなく、年金や投資信託などの金融商品にも振り向けるとみられているからだ。1947─49年に生まれた団塊世代は全国に約680万人。第一生命経済研究所の試算によると、団塊世代が受け取る退職金の金額は07年度から3年間で毎年15兆円以上、3年間の合計で46兆8000億円になる。このため金融各社は「無視するにはあまりにも大きい市場」(大手証券)ととらえている。
<本場・欧州とは違いも>
一方で、日本で言われる富裕層ビジネスは、伝統あるプライベートバンキング(PB)やウエルスマネジメントの盛んな「欧州とは事情がまるで違う」(外資系証券アナリスト)との指摘もある。
大手金融のUBS(UBSN.VX: 株価, 企業情報, レポート)やクレディスイス(CSGN.VX: 株価, 企業情報, レポート)だけなく、多くの独立系PBが拠点を構える欧州では「PBやウエルスマネジメントといえば、金融資産が何十億円もある顧客との付き合いが、何世代にもわたって続いているものを指す。日本のように数千万円─1億円の金融資産までを対象にすることはほとんどない」(同)という。
きょうから開催のロイターサミットには、大和証券のプライベートバンキング担当兼海外担当の谷口幸四郎執行役員や、みずほ銀行の野中隆史常務、三井住友銀行の粂正廣プライベートバンキング事業部長らを招き、国内勢の見据える日本における富裕層マーケットの展望や戦略を聞く。
ジュネーブ支局で同時開催される海外勢からの報告と比較し、日・欧の富裕層ビジネスの違いや各マーケットの特徴についてまとめる予定だ。
また、KPMGなどのコンサルタント会社には、日本とアジアの富裕層ビジネスをめぐる税制度の違いなどについても質問し、日本が投資、金融立国として成長するために何が必要か、問題点を列挙していく。
(ロイターより)